Vol.64 ニューヨークの怪しいホテル @


 1986年8月、初海外・初ニューヨーク。英語キライ、外人苦手の私が足を踏み入れた暗黒の都市(笑)。ただブロードウェイ・ミュージカルが観たい!という思いがあり、友人8人一緒だったにしても、旅行会社で貰った簡単な地図ひとつ、右も左も分からずに歩いた12日間。今思うと何て度胸があるのでしょう!?ツアーで用意されたホテルをキャンセルし、泊まったホテルは3人一部屋(2ベッド)、バス・キッチン付、ウィークリーで$300!!
そこから始まった私のNY。3つの怪しいホテルのお話です。

Roger Williams Hotel
 Roger Williamsの外観初めて泊まったホテルで今もありますが、数年前ブティックホテルになり、ロビーにグランドピアノが置かれるという変わり様。記憶に残るエントランスは非常に狭く、小さな窓には鉄格子(!)。ライオネル・リッチー似のフロントは親切でしたが、“英語も分からない東洋人の女たち”とバカにした感じで英語をまくし立てる人もいて、ビクビクしたものです。部屋は質素で狭いながらも充分でしたが、気になったのは窓に取り付けてあるエアコン隣りの25×30cmほどの穴。薄いベニヤ板とガムテープで塞いであるのですが、テープが剥がれかけ外からも侵入できそう!?すぐに部屋を変えてもらいましたが、またも同じようなベニヤ板が。ただしっかり塞がれていたこと、窓の外が前の部屋のようなバルコニーではなかったことで“外からは入れないだろう”とムリヤリ納得しました。

 不思議なもので、初めはあんなに気になっていた廊下やエレベーター付近の異臭も、数日立つと「帰って来たと思ってホッとする(笑)」。日本にまだケーブルTVが普及していないあの頃。チャンネル数の多さに驚きつつ見た、ミュージカル映画や日本の大河ドラマ。チャイナタウンやスーパーで買出しして作った食事。どれも皆、あのホテルならではの楽しい思い出です。

Martha Washington Hotel
 約10年、NYに行くたびお世話になった女性専用のレジデンス・ホテル(長期滞在可)で、ロジャー・ウィリアムスのご近所でした。ウィークリー料金がツインルーム、バス・キッチン付$264(’89)→ツイン、バス付$350(’98)と値上がりしても、まだ安かった!部屋の広さも、タイムズスクエア付近のエコノミーホテルと比べても変わらず、お得でした。「ボラれた」「夜の(商売)女が住んでいる」と有名ガイドブックに書かれていましたが、「お金のトラブルはNYならどこでも起こる(気をつければいいだけ)」「夜の女がいても別に困らない」と強気でいた私。でもトラブルは何度もありました。
Martha Washingtonの部屋
 隣の部屋に頭のオカシイ人がいて、毎晩叫び続けるので睡眠不足に。。2度目の時、フロントに言うとすぐ部屋を換えてくれましたが、私の傍にいた日本人客が言うには「ルーム#1220?私も最初そこだったのよ」。事情を知っていて、大人しい日本人だからってナメテる!?(プンプン)「変に我慢をしないで言うべきことは言う」を教えられたのは、そんなマーサでの経験からかもしれません。また、長老かもという年配の女性が住んでいたのですが、こぼれ落ちそうな眼球でちょっとコワイ風貌(病気だそう)。ある晩彼女の部屋の前を通ると、ドアは全開で中は真っ暗。唐突に震える声で「グ〜ッド・イ〜ブニ〜〜ン。。」と声をかけられ!!!飛び上がりました。彼女はいったい誰を待っていたのでしょうか?

 ある秋4人でニューヨークに行き、ツイン二部屋に滞在した時のこと。到着翌日、別の部屋のEさんが「夕べ外から悲鳴が聞こえた」と言うのです。私は「あー、NYはよく叫んでる人がいるよね(ほんと、そうだった)」と気にも留めませんでした。数日後、ホテル内のランドリーから戻ったEさん。住人たちのおしゃべりを聞いていたら、私たちの着いた日、ホテル一階のディスコで乱射事件が発生。入口(ホテルとは別)階段付近が血だらけマーサの窓からだったと話していた、と言うのです。「ディスコができて治安が悪くなった。オーナーに閉鎖を求める」とも言っていたそうですが、Eさんの聞いた悲鳴って...!もともとディスコの反対側の入口から出入りしていたのを幸いに、その後も怖くて近寄れませんでした。

 そして帰国後、私と同室だったTさんが「好奇心旺盛な私が、なぜか私たちの部屋の反対、左の棟には行きたくなかった」と告白。彼女は霊感が強いのですが、左の棟とはディスコのある側。エレベーターを降り、左右に分かれて客室があったのです。そう言えばまだディスコが無かった数年前に撮り、窓に顔が写っていた外観写真も左側。やはり“何か”があった場所なのでしょうか。。?その他にも、窓ガラスにいくつもの顔が写ったことがありました。中にはオレンジ色に光る、ムンクの『叫び』も...!

 普通の(?)部屋に関するエピソードは山ほどあります。フライパンで目玉焼きを焼こうとして火災報知器が止まらなかったり、窓のブラインドやロールカーテンに手こずったり。バスタブの栓が無いのは当たり前。よく聞く「ゴルフボールで代用する」案を見習い、ガラスの林檎(ペーパーウエイトでゴルフボール大)で塞いで入浴したり(笑)。バスタブあれどシャワーが無い!考えた末にサラダボールを購入、桶代わりに使ったこともありました(今なら即¢99ショップですね)。二階の窓の外、広いテラスのコンクリートに“NO DUMP”の文字が(え?誰がゴミを捨てるの?)。ある日、窓の外を何かが落ちてゆくのが見えました。テラスに転がっていたのは、2クォート(2,28リットル)のジュースの紙パック!あまりにもダイタン..(ブロッコリーの束のこともあった)。最上階に泊まった時は、パンの袋にアリの群集!緑や土があるではなく、窓からも離れたその場所になぜ??その後の格闘は、素敵だったその夜のコンサートも吹っ飛ぶ勢いでした。

ホテル・サーティー・サーティー(旧マーサ・ワシントン) 今では名を変えホテル・グループにも所属。外壁もハニーカラーに様変わりしました。奇人変人の住み家のように書き連ねてしまったけれど、劇場通いが目的の私は自然と夜更かし朝寝坊で、時々見かけるワーキング・ウーマンとの接点は少なかったようです。よく話しかけられたのはエレベーターの中。感謝祭の日には「今日はターキー食べるの?」(えっ、日本には感謝祭も、ターキーを食べる習慣もないってどう言えば。。)「Have a Nice Holiday!」(あ、行っちゃった。。(笑))

 思い出すのは様々な音。冷え込んだ11月の朝、カン。。カンカン。。プシュ〜ッ!部屋の隅のヒーターが加熱される音で目を覚ます。清掃車の走る音、けたたましいパトカーのサイレン、クラクション。向かいの教会ではゴスペルを練習する女性の歌声。。それらが一緒になって響き、ビルの谷間から湧き上がってくる。。そして、大好きだった屋上の風景。視界の開けた12階建ての屋上には黒い煙突やタンク、明かり取りの屋根がありました。ビルの裏の階段は、まるで映画「ウエストサイド・ストーリー」そのもの!オフィスビルの窓の中、働くニューヨーカー。クライスラー、メットライフ・ビル(元パンナム・ビル)も見え、真近かにそびえ立つ、迫力のエンパイヤ・ステート・ビルディング!!「あの展望台からの景色にも匹敵するな。。」と思いつつ飽きずに眺めたものです。

 別の常宿ができた今でも、ダウンタウンやイーストサイドからの帰り道、ふとマーサに足が向かう私がいます。そう年に1〜2度、短期滞在だったとしても、私にとってもレジデンス(住まい/家)だったのかもしれません。
2004.05.30

  



Another New York Vol.64
ニューヨークの怪しいホテル @
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