Vol.66 最初で最後!? サバイバルBIKE NY!


【プロローグ】
 あれはまだ真冬の最中だった。日本にいるJから「出よう!」との連絡があった。それがBIKE NEW YORK。毎年4万人のニューヨーカーが5つの区をBIKE(自転車)で走り,最後はスタテン島からフェリーで戻ってくるという大イベントだ。緑眩しい5月の爽やかな道を,ニューヨーカーに混ざって走るのもいいなと思い,申込みすることにした。とはいえ,走行距離は42マイル(約60q)!前もって体力作りをしようと思っていたが,結局何もしないうちにあっという間にその日が来てしまった。


【出発前夜〜スタート】
 Jは前日に日本から到着,殆ど寝ていない状態のうえ,遅くまで仲間と飲んでいた。これには僕も参加していた。とても楽しかったけど,結果として2時間余りしか寝ていない状態で参加することに。朝,かろうじて起き,受付会場のバッテリーパークへ。BIKEを持って地下鉄に乗ったのは初めて。ちょっとだけニューヨーカー!?地下鉄から出たら今にも降りそうな天気。そう,天気予報は雨だった。このままもってくれれいいのだが・・・。デリに寄って軽く食べ,受付会場へ。ID持参って言うわりには,そんなチェックもなく,書類1枚書いてあっさりゼッケンをもらった。さあ,ゼッケンつけてヘルメットかぶって準備完了!ちょうどグラウンド・ゼロの真横でスタートラインについた。とにかく前後左右,人・人・人&BIKE・BIKE・BIKE!そうそう,この待ち時間の間,Jといいアイデアを思いついた。ヘルメットに『NY LOVES YOU』のステッカーを貼ったのだ。走っているとき誰か反応してくれたら面白いぞって。そうやってワクワクしながらついに一斉にスタート!!


【スタート〜マンハッタン】
 まずは6th Ave.(Ave. of Americas)を北上。走り始めは,ギアを切り替えたりしながらBIKEとの相性を確かめつつ恐る恐る走っていた。でも,朝のまだ静かなトライベッカ,ソーホー,グリニッジビレッジを走るのは気持ち良かった。しかし,そんなに遅く走っているつもりは無かったのに,周りにどんどん追い越されていく。走り慣れているタフ・ガイにならわかるけど,普段着で走っているお姉ちゃんや近所のおじさん風の人やおしゃべりしている子供たちにまでも。恐るべきニューヨーカーズ。僕らは少し焦ってスピードを上げた。ちなみに道路は完全通行止め。いつもはイエローキャブが我がもの顔で走るダウンタウンを,すいすい〜っとBIKEで駆け抜けるこの感動!なんだか自分のために空けてくれたようで,とっても気分がいい。でもそれもつかの間,ついに黒い雲が頭の上に広がってきて,ポツリポツリと降り出してきたのだ!


【マンハッタン〜ブロンクス〜マンハッタン】
 セントラルパークに入ったら、雨が本降りになってきた。カッパは着ていたけれど,手や顔や足がびしょ濡れでその上寒い。が,しかし周囲のBIKERたちは全くスピードを緩めない。公園内の道は結構くねくねしていて上り下りもある。僕はスリップするんじゃないかと思ってヒヤヒヤしていた。公園を抜けて,ハーレムに着き,ようやく小降りになったと思ったら,今度は向かい風。最初からなんて過酷なレースなんだと,Jと嘆きながら,文字通り歯を食いしばって耐えた。そして相変わらず他の人に追い越されていった。彼らは,この雨風にたいしてこたえてないように見えた。この雨風の中,半袖だし。全く恐るべきニューヨーカーズ。その後,ブロンクスに入る橋の手前で,また降るかもしれない雨に備えて99¢ショップに寄り,ビニールポンチョを購入。二人でアメリカンサイズのポンチョを着てヘルメットをかぶったら,かなりおかしい格好だった。でもそんなこと言っていられない。一緒に買ったおやつの「プリングルス」の塩味が雨風に耐えた私たちにやけに美味く感じた。気を取り直して再出発。橋を渡ってブロンクスへ。しばらく走ってまたマンハッタンに戻り,今度はイーストリバー沿いのFDR(Franklin. D. Roosevelt Drive)を南下した。この途中で待ちに待った1回目の給水所(休憩所)があった。僕たちは人とBIKEをかき分けて水やバナナをゲット。そうそう,トイレも済ませたかったけど・・・仮設トイレは長蛇の列。並ぶのは諦めてまた出発した。


【マンハッタン〜クイーンズ〜ブルックリン】
 再びFDRを走ってクイーンズボロブリッジに到着。そこからクイーンズに入る。クイーンズボロは古くて長い。先は長いぞと,おとなしくBIKEを降りて,橋の真ん中まで引いて渡った。そう,このツアーはタイムを競うレースじゃない。景色を楽しみながら,自分のペースで走ればいい。クイーンズに入ってしばらく走り,その後ブルックリンに向かった。それにしてもいよいよトイレに行きたい。次の給水所までもったとしても,あの長蛇の列に並ぶ気にはなれない。どこかないかと,キョロキョロしながら走っていたら,バーガーキング発見!店員さんにジロリと見られたので一応バーガーやアップルパイを買って交代で入った。その頃,ようやく日が照って暑くなってきたのでポンチョを脱いでTシャツに。やっと軽装になれて,俄然やる気が出てきた。睡眠不足のわりにはまだ元気,やはり太陽の力は大きいのだ。途中,いくつか給水所があったけどそれも寄らなかったくらい順調,気持ちよくブルックリンの道をとばした。道のところどころにはスタッフが立っていて,「頑張れ!」って声を掛けてくれるのが嬉しかった。


【ブルックリン】
 ブルックリンブリッジが見えてきたところで,ゼッケンチェックがあるとのことで人がたまっていた。人の流れにそってBIKEを引いていたら,面白いものに遭遇した。なんとBIKEウエディング!!タキシードの新郎とウエディングドレスの新婦が参加していたのだ。新婦はブーケも持って,ヘルメットの下にはベールも掛けていた。こんな変わったウエディングなら思い出深くなるだろう,周囲のみんなに自然と笑顔がこぼれて「Congratulations!」って声が聞こえていた。
 ところで,結局ゼッケンチェックなんて無くて(知らない間に歩道にいたスタッフがチェックしていたかもしれない),少ししたらまた皆BIKEに乗って走り始めた。その後,ブルックリンハイツの真下の道を通ったので,自転車を止め,目の前に迫るマンハッタンのビル郡の写真を撮って楽しんだ。しばらく走った後,目の前が開けハイウェイが延びていて橋らしきものが。標識には「VERRAZANO(ベラザノ)」の文字。それは,このツアーの最後に渡る橋の名前だ。おおっゴールは近い!そう思ったら,急に元気になって,ペダルをこぐ足を早めた。でも,ゴールは一向に見えてこない。それどころか,さらに長い長いハイウェイが延びていて,その後も長い長い海岸沿いの道を走ったから,ようやく途中で「ゴールはまだ先だった」と気付いた。どうやら僕たち,「ベラザノ行きの道」を「ベラザノ橋」って勘違いしていたようだ。ゴールだと思って張り切って走っていたのに,なんだか気が抜けた。ゴールは本当にまだまだ先だった。がっくし。それでも海沿いの道は気持ちよかった。走れば走るほど摩天楼が後の方に小さくなっていって,自由の女神も見慣れない角度に見えるから新鮮だった。その時は天気も最高,朝のセントラルパークでの土砂降りが嘘のよう。そう,僕はこんなサイクリングを頭に描いていたのだ!周りの人たちも気持ち良さそうに走っていた。サドルが縦に2つ並んだ親子の二人乗りBIKE,カートに近い幅広のBIKE,サイドカータイプのBIKE,そしてヘルメットにデコレーションしたり,ハンドルにフラッグつけたり。そういう私も『NY LOVES YOU』ってステッカーを貼っていたぞ。残念ながら声を掛けられることはなかったが・・・。


【ブルックリン〜スタテン島(ゴール)】
 そしていよいよ最後の橋,ベラザノ橋が見えてきた。今度こそ本物だ。ブルックリンとスタテン島を結ぶ,つり橋ではアメリカ一の長さを誇る橋。ファイナルにふさわしく,半分霧がかかってとってもミステリアスで,最後にこの大物の橋を越えるのかと思ったら武者震いしそうだった。Jと「最後は頑張って歩かずに渡ろう」と決め,いざベラザノ橋へと走った。一度も下りずに根性で走る熱い私たちとは対照的に,霧に包まれた橋の上は気温がぐっと下がっていて周囲の景色は一切見えず幻想的。まるで雲の中を渡っているようだった。長い長いベラザノ橋を渡りきったところでちょうど霧も晴れ,ようやくゴールが見えた。橋の脇の広場では音楽が流れ,人々が集まっていた。ついにゴーーール!!でもあれ?結構あっさり。もうちょっと感動的かな?と期待していたが,ゴールラインもゴールテープも無く,何となく「各自ゴール」って感じだった。タイムも関係ないし。そういや,スタートもそんな感じだったなあ。各自スタート。ま,いいか。ここはアメリカ,細かいことは気にすまい。記念Tシャツの買い物をして,帰りのフェリー乗り場に行くことにした。するとなんと!フェリー乗り場まで,さらに数マイル走らなくてはならないという。ええーっ,もうゴールしたんだから勘弁してー!がっくりしながらまたBIKEにまたがった。


【スタテン島〜マンハッタン】
 スタテン島は閑静な住宅街が広がり,家々が美しかった。私はスタテン島初上陸。しかも,普通ならフェリーか車でしか来れない島にBIKEで渡ってきたのだ。それが出来るのも1年に1回の今日だけ。なんて貴重なんだ,と思うと,スタテン島を走るのもまあ,いいかと思えてきた。でもようやくフェリー乗り場に着いたと思ったらまたもや試練が待っていた。今度はフェリーを待つ人の長蛇の列。一体何人?真面目に1万人はいたんじゃないかと思う。しかも次のフェリーが来るまでビクともせず,同じ場所にただただ立って待っている。交通に詳しい「自転車屋さんの店長湯本さん」に電話をかけ,なんとかマンハッタンまで帰る別の手段はないか尋ねるが,「無い。フェリーに乗るしかない。」との答え。がーん。とにかく待つしかなかった・・・。ここまで何とかぶっ倒れずに辿り着いたのは,一生懸命ペダルをこいでいたからかもしれない。体を止めたここで,僕達はついに睡魔に襲われた。Jに話しかけたが返事がない。おおっJよ,BIKEを支えながら立ったまま寝ているぞ!なんて器用な!無理も無い,彼は日本を発つ前からほとんど寝てないのだ。そういう僕も眠くなってきた。何しろ列は一向に前に進まないのだ。このままでは共倒れなので僕は蓄えていたチップスを立ったまま食べることにした。一体何分待っただろう?1時間はたったか?ようやくフェリーがやってきて,人々が前へ進み出した。でもこの人数じゃ一回で乗り切れるかわからない。僕たちの少し前で,「ここまで」って言われるかもしれない。そんなの嫌だ。もう待てないのだ。そしたら,思いのほかフェリーはどんどん人を乗せ,僕たちも乗れることに。やったー。これで帰れる!フェリーが動き出したと同時にJはまたすうっと眠りに落ちてしまった。僕は不思議と睡魔が消えたので甲板に出て,小さくなるスタテン島を眺めていた。しばらくして自由の女神が近くに見えてきた頃,彼も起きてきてまた写真を撮った。ほんの15分ほどの乗船時間だったけど,マンハッタンについた時の喜びったらそれは言葉に出来ないほどだった。ああ,やっと帰ってきた!って。でも過酷なツアーは実はまだ終わっていなかった。この時はまだ知らなかったけど。


【マンハッタン〜本当のゴール】
 ホテルはミッドタウン。あとは地下鉄に乗って帰るだけ。早くシャワーを浴びたいなあ,なんて話していたが,最初に入った地下鉄の入り口がクローズとなっていた。何かあったのかな?と,別な入り口へ行ったがここもクローズ。では,路線を変えて他の入り口へ。ここもクローズ。何箇所周った?入り口がクローズか,あるいは「BIKEを持って入っちゃダメ」と言われ,すごすご地上へ戻った。どうやら,バッテリーパーク付近からはBIKERは乗ってはいけないらしい。混乱を防ぐためか?ということで,「これはもうBIKEに乗って帰るしかない」と判断した僕等,すでにヘトヘトなのに,さらにミッドタウンまでの60〜70ブロックを走ることになった。しかも今度は通行止めじゃない普通の道路。ニューヨークではBIKEは車道を走らなければいけない。歩道を走ると罰金になる。睡魔・疲労を抱えながらあの乱暴な車の行きかう車道を走るのはとっても危険。意識が朦朧としていたんじゃないかと思うくらい,言葉少なに,よろよろと北上した。体力は思ったより続いたけど,気力がもう限界だった。


【エピローグ】
 ホテルに着いたのは夕方6時。僕もJもなんと12時間もBIKEに乗っていたことになる。もう何も考えられない。自転車から降りた足は震えていた。そしてその距離,おそらく100q近く。ひええええ。雨のセントラルパークに始まり,風あり坂ありトイレなしの道。ゴールに惑わされるわ,フェリーは待たされるわ,地下鉄拒否されるわと苦難の連続。僕たちは気持ちいいサイクリングに出るつもりではなかったか?これでもかこれでもかという過酷なツアーはまるでサバイバルゲーム。なぜここまでして出るのだ?Jに来年も出るか?と聞いたら苦笑いだけして答えは返ってこなかった。それ以上は聞かないでおこう。しかし,終わってみれば,普段行けない場所に行け,美しい風景を楽しめたし,何が起きるかわからないワクワクする冒険だったと思う。僕はニューヨークにまだいるから,別な人誘ってまた出ようかな。一晩寝たらなんとか復活,思ったより筋肉痛にもならずに,Jは元気にニューヨークを楽しんで帰っていった。大変な思いをしたときほど心に残るもの。このBIKE NEW YORK,苦難の思い出として?ずっと忘れないだろう。(完)
2004.05.30

Bike NYについては、NYLYステッカーをバイクに貼って参加して頂いた、@nakさんの素晴らしいレポートもあります! Cycle@nakのBike NY JOJO

  



Another New York Vol.66
最初で最後!? サバイバル Bike NY!
Text Mr.Verrazano
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