Vol.06 旅の終わりに


アッパー・イーストサイドにあるユダヤ民族とユダヤ教に焦点をあてた美術館 The Jewish Museum (1109 5th Ave.) へは多くの方が訪れたであろう。そして今回私が初めて訪れたのはThe Museum of Jewish Heritage。場所はバッテリーパーク・シティの端。地下鉄の駅ならBowling Greenから徒歩5分位の所にある。

テロ対策に、肩からかけたポシェットはもちろんコートもX線にかけたこの博物館。メインエントランスに入るなりボランティアらしきスタッフが近寄ってきて、パンフレットを渡しながら展示概要を説明してくれる。博物館、美術館というと、私はまずエレベーターで最上階に行き、階段かエスカレーターで上から下へと見るようにしている。美術館巡りは優雅なようで、実際は体力勝負。全部観終わったところでショップを覗いたり、カフェでゆっくりするにはこの方法が一番だ。今回もそのつもりでエレベーターに乗ろうとした矢先、「ミス。この博物館はまず1階から順に上を見て下さい。」と声をかけられた。この理由は後でわかる。

博物館はたった3階建てなのに、各階毎に設定されたテーマに沿って、膨大な資料が展示されている。1階ではユダヤ民族の日常生活が(Jewish Life A Century Ago)、2階はいよいよホロコーストの歴史が目の前に突きつけられる(The War Against The Jews)。3階ではこれまでの重苦しい張り詰めた雰囲気はすこし和らぎ、大戦後彼らが世界各地で活躍する様子を紹介(The Jewish Renewal)。

誰しも旅の終わりにちょっと悲しくなったことはないだろうか?私はNYに来てまだ(もう?)6日目だというのに、全てを見終えて3階のギャラリーにいる時そんな気分になった。窓に近づくと、この建物がバッテリーパークの遊歩道を挟んで恐いくらい波打ち際 ぎりぎりに立っている。ハドソン・リバーとイースト・リバーが交差するせいだろうか。繰り返しぶつかり合う波。小さなエリス島の上で、松明を高く掲げた自由の女神が10個の窓のどの角度からも遥か遠くに見える。広々としたギャラリーは照明を落として、ほの暗い部屋に暖かい冬の光が窓から斜めにさしこむだけ。窓の近くのベンチに私は長いこと腰をおろしていた。そうしてやっとわかった。1階から順に見てと言われた理由が。下の階から3階まで順に見たことで、私もある意味で旅をしたのだと。そして旅の終わりに見た答えが自由の女神だったんだと。

よく晴れた日が続いたこの冬のNY。室内にいるとわからないけれど、外は耳も切れそうなくらいすごく寒い。風が強いのは波の動きを見ればわかる。子どもの頃よくそうしたように、窓ガラスに頬を押し付けてみる。今まで見たどんな姿よりも、こんなに自由の女神が美しいと感じたことはなかった。初めてNYに来た時、彼女の事を“Miss Liberty”って書いたポスターを見て笑ったっけ。あれからもう何年・・・。自由の女神よ。どうかその美しい姿を変えないで。いつまでも松明を掲げていて。すべての者にとってあなたが自由と希望の象徴でありますように。

私は短い生涯を確かに生きた人々の名前を書きとめた。厚さ4センチにもなる数冊の名簿からたった5人だけど。けして名も無い人なんかじゃない。だって現にこうして名前が残されているのだから。あなた方は記録され、記憶され、そしてその名は伝えられる。

   Rest in peace.
   Elise Abbou, Henri Aron, Jacob Krochmel, Maurice Bekier, Yvette Partouche.
  Keeping the memory of the past alive and offering hope for the future with love.
2002.04.27




Yes, I feel NY ! Vol.06
by
Scully

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