Vol.09 NYでお茶を 伊藤園NY編


たったあれだけの狭い土地にアべニューとストリートが交差するマンハッタン。移動の際にバス、サブウェイ、イエローキャブ、そして貸し自転車のどれを選ぶかは気分次第。ほんの1本通りを隔てただけで街並ががらっと変わるのもこの街の大きな魅力だ。それを確かめるには自分の足で歩くのが一番。でも現実にはウィンドーショッピングも兼ねていつしか延々と歩き続け、ふと我にかえった時、既に足はガクガク、頭はクラクラ。そんな時、あなたはどうしますか?

この春、何とあの伊藤園がNYに店を構えたと聞いて早速URLをチェックした私は、その余りに洗練されたサイト作りに大きなショックを受けた。こっ、濃くない。これからの季節、不快指数100%一直線の日本の夏なのに、このサイトだけは快指数1000%なのだ。しかも俳句の何たるかまでウェブで説明してる。高級住宅地というロケーションを考えると、レストランKai(会)は敷居が高そうなので、まずはアフタヌーン・ティーで攻略しようとNYに立つ前から固く決心した私であった。

おりしもギンギンの太陽が照りつける夏の日、ミュージアムマイルを歩き疲れた所で憧れの伊藤園NYに入った。場所はアッパーイーストサイド、マディソンAve.の68X69st. ここは2階が茶飲所とレストラン。階段を上るとレジスターが見え、キャリアウーマンらしき風貌の女性がトーンを落した声でスタッフに仕事の指示をしていた。近くにはグリーンx黒x白の制服を着た2人の日本人ウェイトレスと、シェフのいでたちをしたアメリカ人女性が控えめに立っている。なるほどサイトから受けるイメージと同じで、西洋風の濃い飾りつけなど一切排除したシンプルで洗練されたインテリア。かといって西欧諸国が東洋にこうであって欲しいと望むようなステレオタイプ化されたものでは決してない。第一、マンハッタンによくいる、どこぞのわけわかんない着こなしのキモノ・ウェイトレスはここでは大ヒンシュクを買うだけだろう。お茶がメインだからといって、規則尽くめの野点でガチガチに緊張を強いられるようなそんな雰囲気でもない。できれば一人で、またはごく少人数で静かにお茶したくなる、そんな癒しの空間。個々のテーブルには小さな四角い器に美しい黄緑色の菊が敷き詰めてあり、そこではミニマムな世界に限りない宇宙が広がっていた。

席につくとシェフ嬢が控えめな笑顔と共にしずしずとお絞りを出してくれた。暫くして使用済みお絞りを下げるタイミングも絶妙。伊藤園NYは、ここアメリカにありながら日本式の接客態度と、日本とNY、しかもアッパー・イーストサイドという立地条件がうまく効を奏したと言える。ツウを自称するアメリカ人の心を必ずやくすぐるであろう。日本人でさえ、日本の会社がやってるただのお茶タイムと甘く見ては大やけどする。こうしたリッチな雰囲気に圧倒され、メニューを見ただけで目がチカチカしてきた時にやっと思い出したのが母の口癖。「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥。」 ドリンクは決まっても、sweetsはメニューを見ても目移りするだけの私にウェイトレスは丁寧にアドバイスしてくれた。そこでこの際だからと(確か)Sweet Trayなるものを注文。まもなく出てきたGreen Jasmineは500mlのペットボトルそれだけがぽんと出てくるのではなく、ボトルが倒れないようにピカピカの四角いステンレスの入れ物に入れてある。しかもため息が出そうな背の高い美しいワイングラスと一緒に。この瞬間、日本で「あー、暑いっ!」なんて言いながらボトルをしかと握って直接ゴクっといく我が身を大きく恥じたのであった。

お待ちかねのSweet Trayは、とても小さな洋菓子系お菓子が、デジカメに収まらない幅の長方形のお皿に10個綺麗に並んでいた。It's a small world. 最初見た時は「この小ささは一体何なんだ?」と思ったが、たったこれだけの小さな世界に見た目の美しさとクオリティの高い甘味という芸術が凝縮されている。こうなるともうわび&さびの世界だ。ウェイトレスは一つ一つそれがなんだか説明してくれるのだが、これがまた流れるプールのごとく淀みない説明で、あまりの流暢さ故、結局すべて右の耳から左の耳へと流れていった。

店内に居たのは私の他に3人の日本人女性グループ、少し離れた席には1人のアメリカ人と2人の日本人女性グループだけ。皆、その場の雰囲気を壊さずに、静かにまったりとAs time goes by.であった。うーん。東洋の真珠。日本女性はかくありたい。気になるお会計はチップいれて$20。確かに高い。金額だけ聞くとたかがお茶にこれだけ払うのは考え物だが、一番高くついたのはショバ代・雰囲気代・自己満足代だろう。実はこういった芸術的ともいえる付加価値の値段こそが一番恐ろしいのだ。美術館や博物館の入場料が任意の金額でいい時、一体自分はその芸術に対していくら払うべきかと、そんな事もふと考えた。

さて、1階は木目を活かした明るいインテリアで統一されたショップ。通りに近い方では各種お茶の葉が三角フラスコを華奢にしたようなボトルにいれてある。このデコレーションが絵になる事と言ったら。無機質であり、同時にエレガントでもある。奥は高級茶器。君子危うきに近寄らず。不注意にぶつかって壊しでもしたら保険でカバーするしかないかも。1階のスタッフはアメリカ人だが、噂によると日本語ペラペラとか。ああ、変な英語でいろいろ聞く前に、さっさと買いたいもん買ってよかった。

こうして日本茶の魅力に開眼した私は、先日パシフィコ横浜で開催された世界旅行博の帰りに横浜そごうに drop in. 目的はもちろん伊藤園ティーガーデン。悲しいかな、所詮は騒々しいデパ地下のテナントなので茶葉は透明の大きなボトルに大量に入れてあった。それでも紅茶系、中国茶系、日本茶系と品揃えは充分で、私は散々迷った末、「森の香りの緑茶」と「緑茶とミント」を各50gチョイスした。伊藤園曰く、「1本のお茶の樹から生まれる無限の楽園」。これからの季節、大きなマグカップでホットチョコレートを飲むのもいい。お洒落なカップで薫り高いアールグレイを楽しむのもいい。けれど私が遠くでNYを想う数分間、買ったばかりのガラスのティーポットの中で、茶葉はその美しい緑の羽を静かに広げていく。

伊藤園(日本)のサイト http://www.itoen.co.jp/
伊藤園NYのサイト    http://www.itoen.com/
2002.09.29




Yes, I feel NY ! Vol.09
Text by Scully

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