Vol.10 NYでお茶を とらや編


残念ながらここに書かれたニューヨークのとらやは閉店してしまいました......

 マンハッタンの一等地アッパーイーストサイドでお茶するのは気持ちいい。そう思わせてくれた前回の伊藤園NYだった。日本茶ときたら甘味。甘味といえばとらや。さあ、帰国前日に目指すはとらやです。

 場所は伊藤園NYからほど近い71st.の5Ave.とMadison Ave.の間。日本人店員がカウンターの向こうで笑顔で迎えてくれ、ショーケースにはお馴染みの和菓子が並んでいる。カフェはそこを通り抜けた奥にあった。天井はかなり高く、開放感一杯。ガラス張りの天窓から降り注ぐ夏の日差しが、アイボリーとブラウンの色調で統一されたカフェ全体を明るく照らす。が、そこまではよかった。結論から言って、少なくともその日のとらや体験は不完全燃焼に終わり、伊藤園NYをコスモスに例えるなら、とらやはカオスだった。(それとも私の頭の中がカオスなのか?)

 その日サービスしてくれたのは男女一人づつの店員。伊藤園NYで気を良くした私だったが、こことらやでもお客様は神様です式の日本流サービスをほんの少しでも期待した私が甘かった。彼らの接客態度が悪いというのではけしてない。しかしチップがかかっているなら、笑顔の一つでも見せてくれてもいいんじゃないの? いや、チップ本来の意義を考えるのなら、日本流という表現はちょっと違うかもしれない。彼らの給与体系は別としても、チップは本来ならサービスの付加価値として支払われるもの。サービスが満足行くものであれば、こちらとしてもそれなりのチップを弾もうという気になるものだ。しかし彼らは笑顔もみせなければ、自分が担当するテーブルの客が何を望んでいるのか知ろうとしない。注文をとって、出して、片付けて、会計して、ただそれだけ。Is everything OK?なんて言うわけない。それともそんなことを期待する私が高慢なだけだろうか。

 オーダーしたのはとらやの和菓子(残月)と、どこにでもあるアイスミントティー。今にしてみれば、なぜこんなありきたりなものを頼んでしまったのかと悔やまれる。もっとメニューをゆっくり見ればよかった。やがて上記2点がトレーごと登場。小さなお皿に乗った残月と、ミントの葉が浮かび輪切りレモンがさしてあるドリンク。これに何の不満があるだろう。だけどそれ以上でもなければそれ以下でもない。オリジナリティーに欠けるのだ。これでは日本の会社がわざわざNYにまで進出した意味がないではないか。

 デザイン的には文句無くおしゃれなカフェなのだが、その構造が災いして音が壁や床を伝わって反響する。まるでスカッシュのようだ。店内には、散歩の足を休める一人の人もいれば、ごく少人数で来てる人々もいる。しかし運悪く私が行った時は忘れもしない5人グループがいた。どうやら近所の小金持ちマダムらしい。このおしゃべりがエンドレスに続く。人間、集団になると恥を忘れ周りの迷惑を考えないというのはかくも恐ろしいものか。5分もすると、彼女らの声高のかしましいおしゃべりに眩暈がしてきた。耳もうゎ〜んうゎ〜ん言ってる。かしましいをパソコンで漢字変換するとズバリ「姦しい」ときた。田嶋陽子さん曰く、この字はセクハラ。言いえて妙。我々日本人が意味不明な英語のTシャツを着て得意気になってるのがよく失笑を買うが、それはNYでも同じこと。意味の無い漢字や時代錯誤の熟語をプリントしたシャツを着たり、タトゥーをしてるじゃないの。セクハラだろうが何だろうが、彼女らにはこの際、「姦しい」をプリントしたシャツを着て欲しかった。ついでにその意味はWomenとでも教えてあげたい。汝の名は女なり。20分後、ついに限界が来た。この騒音にもはや耐えられくなった私は、最低限のチップをおいてそそくさと席を立った。

 ありきたりのサービスと日本ならどこにでもあるメニュー、いつ果てるとも知れないおしゃべりに没頭し他人の迷惑を考えない客。その日、たまたまそうだっただけかもしれない。別の日に行った人は素晴らしいサービスと上品な味を堪能したかもしれない。だから私は今ここでとらやはつまらなかった、と言うつもりは全く無い。そうでなければ1993年のオープン以来、10年に渡ってあの一等地でやっていけるわけがない。聞くところによると花の都パリが海外第一号支店とのこと。きっとあの日は運が悪かっただけ。それを確かめる為に、私はまたいつかとらやへ行くだろう。それがいつかはわからないけれど、その日が来るまで気長に待とう。

 お馴染みの横浜そごうでは、もちろん追加取材としてとらやにも立ち寄った。騒々しいデパ地下にありながら、とらやコーナーは壁に堂々と暖簾を掲げ、白い衣装に身を包んだ和菓子職人さんの姿をみて私はほっとした。商品のディスプレイも接客態度もあくまで格調高く、礼儀正しく。世界に誇るJapanese Sweets. いつの日かミュージアム・マイルを行き交う車の喧騒を離れて、とらやNYでゆっくりできる日が来ますように。
2002.10.14




Yes, I feel NY ! Vol.10
Text by Scully

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